【利用規約の書き方】 民法・商法などの原則1: 運送契約の所有権
利用規約を作成するためにはその業種やショップごとに潜むリスクに対して詳しくなければなりませんが、そのほかにも法律の知識、特に民法や商法などの民事法の原則等にも詳しくなければならない場合も多々あります。
下であげている条文は、大手のネットショップの規約に実際にあるものですが、この条文だけを「便利だから」といってそのまま自分の規約に掲載してしまうと、大きなリスクを背負ってしまうことになってしまいます。
その理由というのは、民法や商法上の原則に基づくものです。 ですから、このような法律の知識なしに規約を作成するのは危険を伴う場合もあるということを認識した上で、これらの原則をほんの少しですが説明していきたいと思います。
【大手ネットショップの規約条文の解説1】 条文の紹介
規約を作成する際、法律との整合を図る必要があります。 そのためにはある程度の法律の知識や原則などを知っておく必要があります。 そのうちまず民法や商法などの原則との兼ね合いについて考えてみたいと思います。
「コピーペースト」の箇所であげた
例文1:
購入した商品等の引渡しについて,同商品等に関する紛失のリスク及び所有権は,当社が同商品等を配送業者に引き渡した時点でお客様に移転するものとします。
という条文を例に考えてみましょう。
この条文がどのような目的で設置されているのかについて話す前に、この条文がなかった場合の民法上の原則がどうなっているのかをお話してみたいと思います。
この問題は、遠隔地間での契約において、配送業者が輸送中の商品の所有権が誰にあるのか、ということにかかわっています。
【大手ネットショップの規約条文の解説2】 運送契約の所有権と占有権
右の図は、売主と買主、そして配送を依頼する配送業者の間の占有権と所有権の関係を表にしたものです。
占有とは物を実際に支配している状態、所有とは物の所有権を持っている状態のことをいいます。 通常は占有と所有は同じことが多いのですが、たとえばわたしがAという人から物を預かっているような場合、占有はわたしがしているが所有はAという状態になります。
それでは実際に右図を見ていくと、たとえばわたしがネットショップでかにを買って大手のクール便を利用して自宅に運んでもらう場合、①~③のうちどの図のような契約になるでしょうか?
答えは②番の契約になります。
配送業者は依頼主であるネットショップ(図でいう「売主」)から荷物を預かって目的地であるわたしの自宅(図でいう「買主」)まで届ける契約を結びます。 自宅でわたしが荷物を受け取って初めて運送契約が成立しますので、その配送が完了したときにそのネットショップからわたしにかにの所有権が移ることになります。
ところが、例であげた条文ではネットショップが配送業者に配送依頼をして荷物(ここでは「かに」)を渡した時点で「かに」の所有権をわたし(買主)に引き渡すというものですから、図の③番の契約に転化している、ということになります。
ちなみに図の①番の契約方法をとる配送業者は存在しないはずです。 (商法に定められた「運送契約」の基本原則は②番の契約方法です。)
【大手ネットショップの規約条文の解説3】 設置するメリット
では、②→③にすることでどのようなメリットが生じるのでしょうか? メリットが生じないのだとするとこのような条文を加える意味がありません。
この条文を加えるメリットは、手違いや悪天候などの理由で期間内に目的地に配送できなかったり、商品に欠陥があったりしたときにネットショップに寄せられる苦情・クレーム。リスクを軽減できる、というものです。
「うちでは配送業者に渡すときに期日に間に合うように出したし、そのときは欠陥もなかったよ」といえばあとは「配送業者に文句言って」ということにできます。
ただ、これは実際には②でもあまりかわりません。 配送業者は配送時に欠陥やタイムロスがなかったことを立証できなければ、配送中に欠陥などが生じたということにされてしまうように法律が定められているからです。
この条文を設置するメリットは、その立証責任うんぬんを関係なく期日に間に合わないor配送中に欠陥が生じたなどのクレームをシャットアウトするところにあるといえます。
【大手ネットショップの規約条文の解説4】 設置するデメリット
逆にこの条文を定めることで生じてしまうデメリットも存在します。
そのデメリットは、買主の入力した住所に不備があった場合にひょっこり顔を覗かせます。 買主の入力した住所に不備があったら当然配送業者は依頼者であるネットショップに返送してくると思います。
その返送されてきた商品は誰のものでしょうか? この条文がなかった場合(通常の場合)、返送されてきた商品の所有権はネットショップにあります。 ですから、もし再発送するのに買主に連絡しても通じなかった場合、最終的には自分の判断で処分することができます。
しかし、この条文があることによって、返送されてきた商品の所有権は、すでに買主に移ってしまっています。 ということは配送業者から返送されてきたものを受け取ると「他人のものを保管する」ということになってしまうのです。 つまり買主との間に無償・無期限の保管契約が新たに生じることになってしまうことになります。
そこからすぐに買主と連絡がついて再発送ができれば問題も起こらないのですが、問題は買主との連絡がまったく取れない場合です。 買主との間に連絡が取れない間に商品が腐ってしまったりしまっても勝手に捨てたりすることはできません。 捨てるにしても買主に許可を得なければなりません。
それが何年続くのかというと・・・・民法の取得時効(つまり再び自分のものになること)は最低が10年ですから10年間、場合によっては短くなることもありますが、それでも何年間も捨てることも壊してしまうことも許されず保管し続けなければなりません。
【大手ネットショップの規約条文の解説5】 デメリットを消す条文
では、このデメリットを消すにはどのような条文が必要なのでしょうか? 答えは簡単です。 商品が返送されてきた場合の条文があればいいんです。 たいていは再発送について売主と買主で別途協議するなどの条文がある程度でしょうが、そこにプラスして「~~を起算日として~~日間保管して、保管期間を経過した場合は当該契約を解除する」、「~~日間保管して、保管期間を経過した場合は当該商品を廃棄することに同意するものとします」などの条文を設けておくとよいかと思います。
いずれにしても、この条文は商法の原則を捻じ曲げる条文なので、普通のネットショップでは安易に用いないのが賢明かと思います。
この条文が必要なネットショップはたとえば当日限り有効なチケットを扱うショップやガラス細工など非常に取り扱いの難しい商品を扱うショップなど非常に限られるのではないかと思います。
【利用規約の書き方】民法・商法などの原則2: 通知手段について
発信主義と到達主義
「契約は意思表示によって行われます、・・・とものすごく基本的なことから書き出してしまいましたが、ネットショップ内で行われている契約でも当然この原則が適用されます。
ネットショップなどのように一般的に遠隔地間で行われる意思表示の場合、発信されてからその意思表示を受け取る(到達する)まで、若干のタイムラグが生じる場合があります。
そこで出てくるのがこの意思表示が発信されたことをもって意思表示(通知)がなされたものとする発信主義と意思表示が相手に到達した時点で意思表示(通知)がなされたものとする到達主義の問題です。
発信主義を採用すればもし相手が受け取ることができなかった場合にも契約は成立してしまう危険性があるし、到達主義を採用した場合に、もし相手方が大人数だった場合にはいちいち一人ひとりに届いたかどうか確認するのは大変面倒くさい、ということになるかと思います。
特に契約の意思表示の中でも契約の「承諾通知」については、その契約が成立するかどうか、またいつ成立したのかが決まる大変重要な問題といえます。
それを踏まえたうえで下の条文を見てみましょう。
例文2:
1. 当社から会員への通知方法は,別段に定めのある場合を除き,当社からの電子メールによって行われるものとします。 なお,当社は,当社が会員へお伝えする重要な情報があると判断した場合,申込登録手続きにおいて,当社からのメール通知等の受信をすべて拒否する設定をした場合でも,電子メールの送信ができるものとします。
2. 前項の通知は,会員が申し込み時等に指定した電子メールアドレス宛への発信をもって完了したものとみなします。 なお,電子メールの不達,誤達,遅達等によって会員が同電子メールを受け取ることができなかった場合,当社は,一切の責任を負わないものとします。
この条文で謳っている「会員」への通知の中には「契約の承諾通知」も当然含まれる場合が多いかと思います(含まない場合には別の条文や「契約の承諾の通知についてはこの限りではありません」などの文言が必要でしょう)。
さて、ではこの例文は発信主義に基づいて書かれた条文でしょうか? それとも到達主義に基づいて書かれた条文でしょうか?
答えは発信主義に基づいて作成された条文ということになります。 先ほども書きましたが、ネットショップなどインターネットで商取引を行う場合、相手が大人数になる可能性が大きくなるので、通知のメールが届いたかどうかを一人ひとりの顧客に確認することは実質不可能といってもよいのではないでしょうか?
実際に大手のネットショップや会員制サイトなどの規約でもこの例文のように発信主義に基づいた条文が多くなっている傾向があると思います。
電子商取引に関する準則での立場
ところが、経済産業省の「電子商取引に関する準則」では逆に電子契約の意思表示としては到達主義を採用していると考えられます。
「承諾通知の受信者( 申込者) が指定した又は通常使用するメールサーバー中のメールボックスに読み取り可能な状態で記録された時点で」電子契約の承諾通知がなされたとみなします。と準則の中で述べられています。
ということは、例文2の条文で述べているような「発信による通知の完了」では、利用者から「届いてなかったんだけど」といわれたときには最終的には対抗できないことになってしまいます。
工夫の必要性とヒント
そこで、この例文2の条文に、運営者からの発信と客のメールボックスへの到着を「限りなくイコール」という状態にする、ある工夫を施す必要があります。 この工夫をどうするか、規約作成者の腕の見せ所ではないでしょうか。
このサイトではここまでしか教えられませんが、わたしがもしヒントを出すとすれば、「ドメイン指定」という言葉と「相手のせいにする」ということでしょうか。
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![]() 行政書士・塩坂 壇 |





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